hanafusadayu のすべての投稿

『幻想としての劇空間』今日から玉女丸の出帆。

今日から『団七』は玉女ちゃん。
昨日まで積み上げて来た『ドロ場』の演劇空間を白紙に戻しての出発。
芝居村Aの共同幻想が成立した頃に別の芝居村Bから人がやってきたみたい。
こういう中日(なかび)替わりというのは、替わる本人にとって、実に嫌(いや~)なもんでっせ。
転校生みたいな気分です。
これから皆で無関心を装いながらも蟻塚のように、芝居の間(マ)を築いていかななりません。
玉男師匠直伝の、もう既に会得し開花し始めている『芸』を、いかに人前で晒すか。
玉女ちゃんの持ち味がきっと発揮されることでしょう。
勿論、『団七』の左遣い(玉志)も足遣い(玉佳)も交替してます。
玉女丸頑張れ。

『大胆は緻密の塊り』簑太郎君の芸

今夜も口上の時『英大夫!』の声がかかりました。
このお客さんかどうか判りませんが、ロビーで素浄瑠璃のチケットを売っている清丈君に『これを(高島屋の紙袋)英大夫さんに渡してください』との言付けがありましてん。
50過ぎ位の男の人でした、という清丈君から手渡された袋を開けると麻のスポーツシャツ。
『団七に感動し今公演に度々足を運んでいます』と添え書きがついていました。
『他の人の関連で楽屋にもよく顔を出して』いらっしゃるとのこと。
ホンマ、有り難いことです。
どなたが期待して舞台を聴いて下さっているかワカリマヘン。
きばらにゃあきませんなあ。
さて、簑太郎君の団七は今日で終わりました(明日からは玉女ちゃん)。
床から本舞台は見えませんが、右目の端の方で人形の動く気配は伝わってきます。
簑太郎君はボクが語る団七のコトバと状況を、卓越した人形の動きの渦中で把握仕切り、尚且つ玉男師の義平次との距離感やら感情の移ろいを緻密に獲得しつつ、ズバッと大胆に演劇空間の時限に己が魂魄を切り込んできます。
ボクの語りの間やら寸法を瞬時に飲み込み、先に息を使い、頭(かしら)や手足の動きをピタリとキメるんです。
スゴイ人でんなあ。

今日は劇場の休館日。夜、鈴木亜紀のライブに行く。.

中日(なかび)前後に一日休みの日が入る(大阪だけですが)と気が抜けるという方もおられますが、10年程前から始められたこの方針を、ボクは非常に喜んでおります。
張り詰めた緊張を和らげる大きな効果があります。
千秋楽まで一気に行くより、一回緩めるほうがボクにはいいです。
夜、鈴木亜紀(27、8の女性)という人のライブ(知人が企画)に行きました。
オシャレなショットバーに40人位の入り。
自分のオリジナルをピアノで弾き語り(歌い)する趣向です。
当方、日頃の疲れが溜まっていて最悪のコンディション。
2、3人の人に紹介されましたがボーッとしてたので、さぞ印象が悪かったでしょう。
さて、そのライブ。
歌を聴きながらほとんど寝てました。
廻りには熱心に聴いている若いファンがいましたから、さぞかしボクは彼等にとって、嫌なおっさんだったでしょう。
しかし、ラストの一つ前の『たそがれ』という曲とアンコールで歌った曲は光るものがありました。
眠気が覚まされ、ドキッとしました。
あと一つ光る作品が出来たらこの人、ゼニが稼げる気がします。

危険がアブナイ

『泥場』の最後、『八丁目、さして~エ~エ~…』で床本を戴いて、お辞儀をすると床がクルッと廻ります。
暗い盆の裏で額の汗を拭きながら寛治兄に『ありがとうございます』と挨拶したら、兄が床から立ち上がり際『雄ちゃん、今日が一番良かったね』と仰って下さいました。
寛治兄の楽屋の前では先に床を降りた伊達大夫兄が着替えて待ってられます。
挨拶をしたら、伊達兄も『今日、少し出来てた。
少しやで』と云って下さいました。
ホンマ嬉しいことですが、語っていて、快調やという自覚がなかったんですワ。
体調が悪いとは思いませんでしたが、只精一杯語らせていただいてるだけで、初日から通して舞台中、『調子がいい』なんて感じたことありません。
ところがこのところ、いままでなかった声の『待ってました』や『英大夫』が客席からかかるようになるという、狐につままれたような不思議な現象が起ってます。
しかし、『人間万事塞翁が馬』『禍福は糾える縄の如し』の譬えの通り、こんな時こそ『危険がアブナイ』。
調子にのらんと気イつけてフツーにやりまっさ。

メリヤスの間、息は抜けまへん

団七が、『人殺し~』と叫ぶ義平次の口を塞いで『声が高うござります。
声が高い。
声がタ・カ・イ、コ・エ・ガ・タ・カ・イ、コ・エ・ガ・・・』と諭しながら『ん~、こりゃもう是非に及ばぬ』と舅殺しを決断し『毒食わば、皿』と云うと、義平次役の伊達兄は床を降りられます。
この辺の詞の段取りやら感情移入が非常に難しい。
それから団七と義平次のなが~い立ち回りが始まります。
その間10分位、太夫と三味線のメリヤス(舞台裏からの効果音としての太夫の合唱、三味線の合奏のこと=人形の動きに合わせてメリヤス繊維のように伸縮自在に運ばなければならない)が続き、寛治兄と私は床でジッとしてます。
花道から御輿が出て来て皆の視線が向こうにいくと、汗を拭き姿勢を整えます。
その時、寛治兄も調子をみるため三味線の糸を微かに触ります。
その音を耳によく叩き込んでおいて、大事な大事な団七の独り言『悪い人でも舅は…親』を腹に力を込めつつ、お客さんに聞こえるか聞こえない程の低音調で語らねばなりません。