メリヤスの間、息は抜けまへん

団七が、『人殺し~』と叫ぶ義平次の口を塞いで『声が高うござります。
声が高い。
声がタ・カ・イ、コ・エ・ガ・タ・カ・イ、コ・エ・ガ・・・』と諭しながら『ん~、こりゃもう是非に及ばぬ』と舅殺しを決断し『毒食わば、皿』と云うと、義平次役の伊達兄は床を降りられます。
この辺の詞の段取りやら感情移入が非常に難しい。
それから団七と義平次のなが~い立ち回りが始まります。
その間10分位、太夫と三味線のメリヤス(舞台裏からの効果音としての太夫の合唱、三味線の合奏のこと=人形の動きに合わせてメリヤス繊維のように伸縮自在に運ばなければならない)が続き、寛治兄と私は床でジッとしてます。
花道から御輿が出て来て皆の視線が向こうにいくと、汗を拭き姿勢を整えます。
その時、寛治兄も調子をみるため三味線の糸を微かに触ります。
その音を耳によく叩き込んでおいて、大事な大事な団七の独り言『悪い人でも舅は…親』を腹に力を込めつつ、お客さんに聞こえるか聞こえない程の低音調で語らねばなりません。