竹本貴大夫君追悼。《死によって動かなくなったパノラマ》。

一昨日の日記に重複しますが、以下、書き留めます。
彼が亡くなった翌日、彼のお姉さんと弟さんと一緒に彼のマンションにいきました。
貴さんの枕元に新約聖書を見つけました。
栞はヨハネ福音書のところに挟まれてました。
親鸞=浄土真宗の信奉者だった彼。
時にはキリスト教を揶揄したような言葉を僕にぶつけてきた彼の枕元に聖書が…。
あの、見つけた瞬間の光景は、死によって動かなくなったパノラマとして、僕の心に刻みつけられています。
いつまでもかれのことを共有して覚えたいものです。
たしかに節の音程に関して頼りないところがあったのは事実ですが、娘・老女形(フケオヤマ)・若男・爺・婆・そして端敵(ハガタキ)の詞はハラにかかった、素直な義太夫節の声になってました。
声だけでなく、イキを遣う術(すべ)を身につけていたのです。
もったいないひとを亡くしました。
あ、思いだしました。
彼が『奥州安逹原』の三段目の奥を勉強会(国立文楽劇場小ホール)で語ったことがありました。
その時、呂大夫兄の猛特訓を受け越路師匠に仕上げのお稽古をしてもらい、素浄瑠璃の舞台にのぞみました。
その奏演を聴いて、かの岡部伊都子さんが越路師匠に『貴大夫さんの語り、素晴らしかったですね。
』と告げたのです。