素浄瑠璃。『酒屋』で『酒屋』。

西宮の白鷹酒造『禄水苑』で『酒屋』を語った。
始めのうち、花粉症の影響か、喉に極度の引っかかりがあり、閉口。
素浄瑠璃だけに咳も出来ず。
内心、『これから一時間あまり、どないなるんやろ…か』、と恐怖。
が、団七兄の助けもあり、語りながらなんとか徐々に克服。
『酒屋』の極意はなんといってもサワリまでの半兵衛と宗岸のやりとりにある。
その前半の山場である宗岸のセリフ『おれも、こなたほどはなけれども娘は可愛い…不憫にござる、可愛い、可愛い、かわ…、可愛ゆうござるわいのう』も、励ましの拍手にも助けられなんとか通過。
重要ポイントのひとつである半兵衛の咳のくだりも、喉にひっかかりがある分、ケレン味なく真剣に大袈裟に演じられた。
サワリも、『いい声』に主体をおかないで、大胆に感情勝負で挑めた。
不思議なことは、『サワリ』のあとの後半部分。
団七兄とのお稽古では、サワリが終ったら消耗してヘナヘナになり、全て『読むだけ』みたいな空疎な感じが漂っていたのだが、前半の喉のひっかかり不調和を取り戻どそうと、必死で感情移入を心掛けた。
すると、サワリ直後のお園の詞『…嫌われても夫の内、この家で死ねば後の世の、もしや契りの綱にもと…』のところ、サワリに籠めた力を保持しながら語ることができた。
書き置きを読むくだりも、自分なりに迫真に読めた。
こんなん、稽古を通じて一回もなかったことです。
これも、団七兄の一体になって作品を盛り上げようとしてくださる熱意と思い遣りのお陰であります。
それから、聴きにいらしてくださった皆様の無意識なる背後の支えがあればこそ、最後まで集中を切らさないで語れたのです。
ありがとうございました。
人生のこの節目に、こういうかたちで『酒屋』を再認識できたのは、有意義なことです。
感謝します。
このような機会を与えて下さった河内厚郎さんと『白鷹』五代目当主の辰馬朱満子さん、ホンマ、よう話をもってきてくれはりましたなあ。
ありがとうございました。