今までの巡業人生で一番の大役

「すし屋の段」の奥を語る時、必ず1、2回、無呼吸状態に陥り、もうダメだと思う瞬間がある。
それが判るから、一日で一番辛いのが、舞台へ上がる瞬間。
出来たらそのまま、白足袋はいたマンマ楽屋口から逃走したいのだ。
嶋大夫兄が切場の前半の部分を終えて、汗ビッショリかいて舞台から降りてこられると、いよいよボクの出番だ。
「お疲れさまでした。
お願いいたします」と上手のドンチョウ際を互いに擦り抜けつつ発するボクのコトバ。
睦君が嶋兄の見台を、始君がボクの見台を、交換するために持って立っている。
「お疲れさま・・お願いしま・・」いざ!