『天満屋』の改作部分と原作。

原作→『徳様に離れて片時も生きていよふか。
そこな九平次のどうずりめ。
阿呆口をたたいて人が聞いても不審が立つ』。
脚色現行版→『徳様に離れて片時も生きていると思ふていやるか。
そこな九平次の毛虫どの、阿呆口でもおいてたも。
人に聞かれても情けない』。
原作→『相場が悪いおじゃいの。
ここな妓衆(よねしゅ)は異なことで。
をれらがやうに金遣ふ大尽は嫌ひさうな。
あさ屋へ寄って一杯して、ぐはら々々一歩を撒散らし。
そして往んだら寝よかろふ。
アァ懷(フトコロ)が重たうて。
歩きにくい』。
現行版→『こりやちと相場が狂ふたそうな。
これのお初は変りもの。
おれがやうに金遣いのよい大尽様はお嫌いさうな。
あさ屋へ寄って一杯しよう。
みなもおれと一緒に来い。
アーア、かう懐ろが思たうては歩きにくいでへゝ困りやんす』。
悪口をいうのは簡単だが、全体的に眺めても実に巧妙に出来た脚色改訂だと思う。
今の文楽の曲節・流れが本能的に身についていて、しかもよほどの才能と忍耐を要する。
しかし、原作の『ぐはらぐはら一歩を撒散らし』の音感もヨロシオマんなあ。