第七回はなつる会に寄せて

森田美芽

 第七回はなつる会の開催、まことにおめでとうございます。
 十二年前、十人足らずの小さな手作りの「義太夫発声教室」として始まったのが、いまや二つの教室で四十人余りの発表者による会を開催できるのは、まことに感慨深いものがあります。

 かつて大阪では、義太夫は船場の旦那衆のたしなみであり、十万人の素人義太夫愛好者がいた、と言われます。こうした市井の庶民の力が文楽の芸を支えていたのです。
 そしていま、戦争や高度成長で失われたその伝統が豊竹英大夫師匠の尽力で甦り、大阪の街に新たな文化の泉として生き生きとした力を生み出しています。

 お稽古は真剣そのもの、師匠の容赦ない叱責が飛びます。
 しかしお弟子さんたちの、少しでも上達しようとまっすぐに受け止め、立ち向かうそのひたむきさ。全身の汗を絞るような、嵐のようなお稽古を重ね、苦難を乗り越えての成果は、プロでも難しい『絵本太功記・十段目』を奥まで語れる素人が十名近くいるという驚異的な事実において知られるでしょう。

 親や教師でさえ叱ることのなくなった今日、こうした絆は稀有のものといってよいのではないでしょうか。これこそ英大夫師匠の正統な芸の伝承の力と指導力のたまものです。
 そしてそれを受け止めるお弟子さんたちの礼節と一生懸命の姿勢こそ、大人としての芸の楽しみであり、文化の懐深さを育てるものです。
 芸の厳しさと喜び、義太夫の伝統のみならず、それを受け渡す人と人の信頼、文楽が描く情の世界を見事に体現する師匠とお弟子さん方の姿に見ることができます。

 毎年この会のために、一人ひとりの個性を把握して見事にリードしてくださる三味線の竹澤團吾さん、今年は加わってくださる鶴澤清丈さん、いつも影で支えてくださる英大夫師匠のお弟子の希大夫さん亘大夫さん、そのほか関係の皆様にも心より感謝申し上げます。

 はなつる会のこれからのますますのご発展をお祈り申し上げます。

大阪キリスト教短期大学教授・文学博士(哲学)

カウント数(掲載、カウント12/09/11より)