急遽の代役

ただ今は9月国立劇場公演中。
今回、私の役は「東大寺の段」。
綱大夫兄が語られる「二月堂」の前の場面だ。
10数分の小品だがなかなか味わい深いもの。
語っていて実に気持ちいい。
肩衣袴をつけ舞台に向かおうとしたら突然、「二月堂」の代役を頼まれた。
ぎょ。
心臓が止まった。
「二月堂」は1時間10数分の長丁場。
綱大夫兄が最初の5分くらい語るからそのあとの代役を頼む、綱大夫兄少し体調が悪い、とのこと。
「二月堂」は語った経験はなく、もちろん床本も持ってない!公演が始まり数日ほどちいさな字の印刷台本を見ながら聴いてはいたけれども、ざっと印を入れていただけ。
その台本を頼りに一時間あまりも語る?!考えてるヒマはない、僕の「東大寺」が始まる。
で、観念した。
行く先のないジェットコースターに飛び乗る気持ち。
よっしゃ!と居直った。
お客様は少々、節の間違いには気付かないだろうし三味線の清二郎君もなんとかカバーしてくれる。
とにかく渚の方と上人のコトバに集中しよう。
終演後、浅草橋の老舗蕎麦屋「あさだ」で石川グループとの会食があった。
その中に今日が文楽初体験の若い男性がいて、向こうのテーブルでしきりに文楽に感動した、といっていた。
気をよくして、僕が途中から代役したのに気がつきました?と問いかけたら、全然気付きませんでした、申し訳ありません、との返事。
そんなもんでんなあ(笑)。