お便り二つ その2

最後の方の語り、「奥州に、押したて~、おした~て~」は、大夫の気迫に押圧されて場内が息を呑み、床に振り向き振り返りしてほうっと息を呑みました。
これが人形浄瑠璃なんだと・・・初心者の私は、いまようやく文楽が「泣きの芸能」と呼ばれる理由にたどりついたように思いました。
感動を呼び覚ますものとはなんでしょうか。
それは祈りに似た、思いです。
誠心誠意、力を尽くす姿に人は感銘を受け、敬意を払います。
天上から花びらが舞い落ちてきたように、心が震えるような感動が床から客席に降り注ぎ、降り敷き、溢れる涙をぬぐうことさえ忘れるほどの感動にただ浸り泣きました。
団七さんの絶妙なサポートのもと、全身全霊、限界を感じさせないスケールの大きな大きな語りが展開していきました。
人形がしっかと形を決め、遂に大夫がすべてを語りつくし床本を掲げたそのとき、後方から大夫の旧知の友から「大当たり!」の声が掛かりました。
それに続いて、私も最後の「大当たり!」を涙声で・・・情けないみっともない声だったと思います。
しかし一瞬の静寂のあとで大きな拍手が沸き起こり、私の恥はあっとうまに押し流されました。
心臓の鼓動が生きていると実感させてくれる・・当たり前のことを見失っていた時期に文楽に出会って、感情を取り戻し、生きていてよかったと感じることができるいまをありがたいと思わない日はありません。
文楽に感謝します。
》~感謝します。