『お園、ビールの海へ!』またまた、鶴見佳子さんより!

朝陽会館の立派な能舞台。
ここで語れる~。
なんて幸せな弟子連中なんやろ!会場から25人の語りを聴かせていただきながら、何回も涙がこみあげてきかかりました。
皆、稽古の時より、スケールが大きくなっているではないか!さて、またまた、鶴見佳子さんから、本日の感想記が送られてきました→《気温は35度。
建物の中にいたのに、熱中症になったかと思うほどの舞台裏。
女性の楽屋では、亀の甲より年の功、増田さんが淡々と着物に着替えている。
松下さんは髪を整えてイヤホンで最後の調整。
最も出番の遅い佐藤さんは時おり瞑想し、時間と自分との闘い。
いろは送りに挑む佐久間さん、森長さんは「途中で失敗するかもなんて思わずに、鳥辺野ォン!までたどり着こうと思おうよ」とお互いを励まし合う。
人の着付けを手伝い、ヘアピンや髪ゴム、裁縫道具まで用意してきた田丸さん。
自分の準備を後回しにしてまで仲間に気配りする、その心。
一方、安藤さん、川上さん、沓内さん、谷さん、桝井さんら男性たちは、舞台の転換を手伝ったり、湯呑み茶わんを洗ったり、写真を撮ったり。
本来は自分の準備をしたいだろうに、頭が下がる。
この1年以内に義太夫を始めたばかりの沖藤さんや北村さんは時々不安そうな顔で舞台裏へ。
最初に出番の終わった一色さんだけが飄々としている。
それにしても男性陣の裃姿がかっこいいこと!若いイケメンなんかお呼びじゃない男っぷり。
  自分の出番が近づいてくる。
絽の着物に半幅の帯をしめ、お師匠さんからお借りした裃をまとうと、緊張のあまり左胸が痛くなる。
このまま心臓発作で倒れるかも・・。
やだ、どうせ倒れるなら舞台に出てから倒れたい。
いてもたってもいられず、檻の中のトラのように、あっちへうろうろ、こっちへうろうろ。
のどがかわいてお茶をのみ、うがいをし。
落ち着きなさいね、と、壷田さんがいつもお稽古でやっている「息を吐く」準備運動を一緒にしてくださる。
「えらいことだ、大変だ・・」と団吾さんが舞台裏に戻ってこられる。
ソファに崩れ落ちる消耗ぶり。
大変なことが舞台でおきてるのね。
出番を待つ壷田さんと私に「あなたたちは大丈夫でしょうから」と団吾さん。
ひぇー、こんな間際でそんなプレッシャーを・・。
壷田さんの「お園」を舞台裏で聴く。
うまいなぁ、やっぱり。
お園の切なさが伝わってくる。
大きな拍手が広がっている。
次は荒木さんの「いろは送り」。
舞台に声がのびやかに響いている。
たっぷりした声量がうらやましい。
「次は鶴見佳子さんです」と、お師匠さんの声が聞こえた。
いざ、舞台へ。
成功しようなんて思わずに、自分の力を出し切りさえすればいい。
そう自分に言い聞かせる。
床本を見台に置く。
尻ひきをあてて座る。
扇子を出してお辞儀。
拍手が聞こえる。
次は、床本を捧げもち、今から語る覚悟を見せる動作をしなければならないのに・・・忘れた!ぎゃー大変だと途中で気付いたけど、もう遅い。
「失敗に動揺するでないぞよ」と自分に言い聞かせて、前へ前へ・・。
団吾さんの三味線に乗せていただくようにして、語りは進む。
ゆっくり、ゆったり、と自分に号令を出す。
「早いっ」「あかん、早いっ」と叱ってくださったお師匠さんの声と顔を思い出しながら。
最前列に友だち4人が座っていた(らしい)が、誰一人見えなかった。
2列目に黄色いポロシャツを着た男性がいて、その「黄色」しか見えなかった。
それほど私はてんぱっており、高音はかすれ、声は割れ・・・。
いつもより三味線が低く聞こえ、声が出ない。
ただ、能舞台なので、よく響く。
自分の声がいつもより大きく、つやっぽく聞こえる。
すばらしいなぁ、舞台は。
次第に、お稽古の時とは明らかに違う何かを感じとった。
語っている時の自分の背中に、何かが憑いたような感じ。
とても妙。
誰かが私を「酒屋」という、ものがたりの中に引き込んでくれている感じがした。
あ~れ~渦の中にぐるぐるぐる~、だった。
何か不思議な物質が脳内に出てたんですかね。
語り終えると、視界にふぅっと白い姿が・・。
やっと我に返る。
白いお着物を召したお師匠さんが出ていらしていた。
「この人は、習い始めてたった1年ですが、1年でここまで声がでるようになりました。
もう一度、拍手をしてあげてください」。
うわー。
2度目の拍手をいただきました。
  お客様の拍手に私の拍手を重ね、感謝の気持ちを添えて、お師匠さんにお贈りしたいと思います。
これまでのご指導ありがとうございました。
お師匠さんがいらっしゃらなければ、ここまで来られませんでした。
お稽古は私にとって、黄金の時間でした。
発表会が終わり、参加者のだれもが開放感、達成感に満ち満ちていた中、お師匠さんのお顔に、うれしさ、安堵感、疲労感・・いろいろな表情を垣間みました。
生徒は自分の演目をお稽古していればよかったけれど、お師匠さんには、お園が15人、十次郎が7人、松王丸が3人いたのですから。
発表会に出られなかった人を含めれば、いったい何人のお稽古をしてこられたことか。
全員が語り終えるまで気が気でなかったに違いありません。
年齢、性別、職種、義太夫歴・・どれもばらばらの生徒から成る寺子屋を、ひとまとめになさったその手腕。
心から尊敬し、感謝いたします。
お稽古から本番までリードしてくださった団吾さん、ありがとうございました。
三味線を弾きながら出す「はっ」「んむっ」の声がいつもと違って聞こえました。
その声に、これはお稽古ではない、本番なのだ、と背筋が伸びました。
当日、裃を着付けてくださった希大夫さん、座る時のはかまのさばき方を教えてくださった呂茂大夫さん、事前準備から当日の差配、そしてあと始末までしてくださった方々、発表会に来てくださったお客さま、応援してくれた友だち、ありがとうございました。
そして一緒にお稽古をしたお仲間。
先輩たちの背中が常に前にあったからこそ、私はお園になれました。
これからのお稽古も、お稽古後の夕食会もよろしくお願いしま~す。
さて最後に。
舞台を終え、楽屋に戻るまでの道で思ったことは、「ああ、このまま、ビールの海に飛び込みたい!」。
お園は、裃を脱ぎ、着物を脱ぎ、1時間後に、その海にダイブいたしました。
豊竹英大夫義太夫教室発表会の初舞台の結果は・・・「自己ベスト更新」。
これは参加者が団吾さんから贈っていただいた言葉です。
今年は自分のことだけで精一杯だったけれど、来年は周りをもっとよく眺め、手足を動かしながら臨みたいと思います。
》←ありがとう、鶴見さん、読みながらウルウルしてきまんがなあ~。