12日産経新聞の夕刊(関西圏)に掲載の僕のエッセイ

 今、国立文楽劇場四月公演で、『今頃は半七つぁん、どこにどうして…』のクドキで有名な『酒屋の段』が上演されている。
私はメーンの切場の前のイントロの部分を語っている。
 この役をはじめて勤めたのが18年前。
切場を語られた(竹本)越路大夫師匠にお稽古していただいた。
そのときは丁稚の長太や五人組の言い回しにずいぶん気を遣ったものだ。
 しかし今回は、ヒロインお園の夫、半七の愛人である三勝を語りながら胸が熱くなっている。
夕暮れどき。
酒屋の店先に幼子を抱いた三勝が伏し目がちに姿を現す。
もう、たまりません。
三勝にとって、初めて入る恋人半七の実家。
抱く子はもちろん、半七との間にできた子供。
一世一代のドキドキもの。
ここで半七さんが育った…ああ、出てきたこの人がお母さん…。
帰り際がまた、秀逸。
『長太に持たせ出でて行く』の『持たせ』。
『もた、アア、アア、アア、せ』と、なんとも後ろ髪をひかれる節がついているのだ。
(後半は明日14日)